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心臓病/拡張型心筋症

心臓病/拡張型心筋症 (Dilated Cardiomyopathy)

当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


心臓病は中年から高齢の犬に起こることが多く、何となく元気がない、疲れやすい、といった軽い症状から、咳や呼吸困難、チアノーゼ、失神といった重い症状まで様々な症状を表します。一口に心臓病と言っても多くの病気がありますが、ここではウルフハウンドに多い拡張型心筋症について述べます。

心臓疾患はウルフハウンドに多くみられ、主な死因のひとつとなっています。アメリカでの大規模な調査によると、ウルフハウンドの死因の15.1%が心臓病によるもので、死亡時の平均年齢は7.3歳となっています。各国の統計でも死因の約20%前後が心臓病となっており、ウルフハウンドの死因トップ3のひとつです。


<拡張型心筋症(DCM)>

拡張型心筋症は、心筋の収縮力が低下していく病気です。大型犬や超大型犬に多くみられ、発生率は年齢とともに上昇します。拡張型心不全が原因で心不全を起こすのは4~10歳と言われています。また、雌よりも雄の方が発生率が高いという報告がありますが、ウルフハウンドでは発症率の性差はないとされています。  

拡張型心筋症を起こすと、心臓が十分に収縮できなくなり、心臓から押し出される血液の量が減るため、全身の酸素が欠乏します。酸素が足りなくなると、心臓はより多くの血液を送り出そうとして拍動の回数を増し、それによって心臓への負担が更に増す、という悪循環に陥ってしまいます。心臓のポンプ機能が落ちるため脈拍が増したり、不整脈が起こることもあります。


<症状>

初期には元気がなく疲れやすい、呼吸が速い、食欲がない、といった症状が表れます。

進行すると、咳をする、衰弱する、失神するといった症状もでてきます。また、筋肉が減り、急激に痩せてしまうことがあります。  

心臓が悪い場合、肺や腹部に水がたまることがあります。肺に水がたまると呼吸困難や咳といった症状が、また腹部に水がたまった場合はお腹がぽっこりと膨れてきます。

心不全や不整脈によって突然死亡してしまうこともあります。


<原因>

犬の拡張型心筋症の多くは原因不明ですが、遺伝、炎症、中毒(抗癌剤の副作用)、栄養素(タウリン、L-カルニチン)の欠乏なども原因となります。ウルフハウンド、ドーベルマン、ボクサーなどでは遺伝的な素因が関与していると言われています。

<診断>

聴診、レントゲン、心電図、超音波(エコー)検査によって診断します。とくにエコーについては、できれば心臓病専門医の診断を受けたほうがよいでしょう。


<予防策>

心臓病の多くは原因不明なため、残念ながらこれといった予防法はありません。ただし、遺伝することが知られているため、子犬を飼う際は両親犬の血統を良く調べること、ブリーダーが繁殖犬の心臓検査をきちんと行っているか確かめるといったことも重要です。

ウルフハウンドでは、拡張型心筋症を発症する犬のほとんどは、それ以前に心房細動(AF)が見られると言われています。とくに健康状態に異常がなくても定期的に心臓検診を受け、心房細動が見られる場合には経過に注意することが必要です。(ただし、心房細動のある犬が必ず拡張型心筋症を発症するわけではありません)。多くの病気について言えることですが、早めの診断と治療開始によって、その後の状態を長く良く保つことが可能になります。

拡張型心筋症は遺伝性が確認されているので、心臓検査を徹底し、注意深い繁殖を行うことによって発症率を減らすことができます。多くの国の犬種クラブでは、繁殖犬の心臓検査を義務付けまたは推奨しています。


<治療>

一度DCMを発症すると、完治させることはできません。治療は内科的な対症療法が主体となり、心臓への負担を和らげ心機能を強化することで症状の悪化をできるだけ遅らせます。

DCMの治療に使われる代表的な薬:
・血管拡張薬(血圧の低下、うっ血の改善)
・利尿薬(うっ血の改善)
・抗不整脈薬(心拍・不整脈の減少、心臓収縮力増強)
・カルシウム感受性調節薬(血管拡張・心臓収縮力増強)
・サプリメント類: L‐カルニチン、CoQ10、タウリンなど

劇症心不全:呼吸困難、虚脱、食欲不振などが起こり症状が重い場合には入院が必要になります。点滴や酸素吸入をしながらケージ内で安静に保ちます。

日常的なケア:適正な体重を保ち、過度な運動や興奮は避けること。室温は涼しく保ちます(夏場)。また塩分に気をつけ低塩分食にします(ナトリウム摂取量≒13~30mg/kg/日。ドライフードの場合、塩分量0.1~0.25mg/100gのもの。重症になるほど厳しく制限する必要がある)。


拡張型心筋症の予後は、一般的にあまり良いものではありません。ほとんどは症状が出てから3カ月以内で死亡するとされています。しかし、初期の治療で反応がよければ6ヶ月~2年以上生きる犬もいます。ウルフハウンドの場合、拡張型心筋症は比較的治療効果が出やすく、犬種の寿命を大きく縮める病気ではないとされています。



【参考文献】
・Dr. Serena Brownlie "Heart Disease in the Irish Wolfhound"
・Dr. William D. Tyrell "Heart Disease in the Irish Wolfhound" Irish Wolfhound Foundation 2014 (http://www.iwfoundation.org/articles_detail.html?item_id=44&year=2014)
・Andrea C. Vollmar, Philip R Fox, Bruce W Keene, Vincent Biourge, Ottmar Distl, Cornelia Broschk, "Heart screening results of more than 1000 Irish Wolfhounds: Prevalence of dilated cardiomyopathy, survival characteristics, whole blood taurine & DCM inheritance"  The Irish Wolfhound Club Magazin 2005.