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肘腫


肘腫(elbow hygroma)


当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。



肘腫とは、その名のとおり肘にできる腫瘤(コブ)で、中に液体がたまる点がいわゆるタコとは異なります。体重の重い超大型犬に時々発生します。生後6ヵ月から18ヵ月頃の若い犬にできやすく、肘以外にも、飛節や腰骨(大腿骨の上端)、胸の下など、体重のかかる場所や慢性的にぶつかる部位ならどこにでもできる可能性があります。

痛みを伴うことが少ないため日常生活に支障はあまりありませんが、大きくなりすぎると破裂やケガおよび感染のおそれもあります。


<症状>

一番最初は、皮膚がすれて赤く炎症を起こすはずです。その場所で炎症や慢性刺激が続くとタコができ、さらにタコの中に血液や組織液がたまると肘腫になります。

肘腫は大きいものではソフトボール大になることもありますが、細菌感染を起こしたり、自分で齧って傷をつけたりしなければ、痛がることはありません。


<原因>

慢性的な刺激(衝突・圧迫)が原因とされています。極端な話、しょっちゅう頭をぶつけてしまうような環境で飼っていれば頭にできることもあります。


<治療>

若い犬の肘腫は、放っておいても数カ月のうちに自然に治ってしまうことが多いようです。肘腫であると確認できる場合、一般的には、何もせず自然に治るのを待つのがベストと言われています。

しかし、気になる場合、痛みや腫れがある場合は、病院で診察を受けてください。肘腫内の液体が多すぎる場合には、肘の液体を抜いてもらう必要があるかもしれません。

そのうえで患部への刺激を取り除くようにします。患部にぶ厚く包帯を巻いたりパッドを当てる、厚い敷物の上で寝かせるなどし、患部への刺激を和らげます。完全に治るまでには、かなり時間がかかります。

外科手術によって患部に穴を開け、中の液体を出しながら圧迫包帯をして、液が出た後の空洞部分が癒合するのを待つ、という方法もあります。しかし、長い間放置された肘腫や、肘腫の内側の壁が堅くなってしまったものは、非常に治りにくくなることが多いようです。


<予防策>

肘腫はいったんできてしまうと治るのに時間がかかるため、できれば未然に防ぎたいものです。

具体的な予防策としては、犬を飼い始めたときからベットやソファ、分厚い敷物などの上で寝かせるよう習慣付けてしまうことが一番有効ではないかと思います。

また、よく体の特定の部分をぶつける家具などがあれば、それを移動するかクッションになるものをとりつけて、ぶつかったときの衝撃を和らげます。


骨肉腫

骨肉腫 (osteosarcoma, osteogenic sarcoma)




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骨肉腫は、骨に発生する腫瘍の8割を占めるとされています。平均発症年齢は7歳ですが、もっと若い犬で発症することもあります。個体差はありますが、進行するにつれて相当な激痛が起こります。きわめて攻撃性が高く転移しやすい悪性腫瘍で、診断後の平均的な余命は数ヶ月から半年前後です。

アメリカのウルフハウンドクラブの統計では、ウルフハウンドの死因の1位は悪性腫瘍で、そのなかでも骨肉腫がもっとも多く、骨肉腫は全死因の21%を占めています。アメリカ以外の国の統計でも、骨肉腫は死因の20〜30%程度と多く、発症率は他の犬種と比べても相当に高いのが現実です。


<原因>

原因は不明ですが、大型犬に多発し、大きく長い骨に出やすいことから、微細な損傷が繰り返されることで細胞分裂の機会が増加し、変異を招くのではないか、と言われています。また、骨折の修復に用いられた金属や、骨髄炎なども発症率を増加させると言われています。

スコティッシュ・ディアハウンドなどいくつかの犬種では、遺伝性が確認されています。アイリッシュ・ウルフハウンドでも遺伝性があると推測されています。


<症状>

骨肉腫の75%は長骨、つまり四肢の骨に発生します。前肢の発生率は後肢の2倍で、前脚の手首付近と、上腕骨の肩関節側に多く発症します。後肢では大腿骨と下腿(脛骨)に多くみられます。また、少ないとはいえ頭部や肋骨、脊椎などの体軸骨格も侵されることがあります。

最初の症状は、跛行(脚をかばうこと)が多く、症状だけでは捻挫などのケガと区別することは困難です。

進行すると、癌化した骨細胞が正常な骨組織を壊しながら増殖するため、激痛を伴ないます。微細な骨折や圧迫によって足全体が腫れあがったり、巨大化してもろくなったしこりがはじけたり、時には病的に弱くなった骨がささいなことで折れてしまうこともあります。

また、非常に肺転移が多く、骨肉腫の診断がついた時点で、呼吸器症状がなくレントゲン上も問題がなかったとしても、肺にがん細胞の転移が起きていると考えられています。肺の転移巣が大きくなってくると、咳や呼吸困難などの呼吸器症状が起こります。


<診断>

痛みや外見的な症状、レントゲンなどで骨肉腫が疑われた場合は、患部の組織を採取して、病理検査によって診断をつけます。


<治療>

骨肉腫に対する治療は断脚などの外科手術と、抗癌剤を用いた化学療法がありますが、完治させることはできません。治療の中心は、がんの進行を遅らせること、そして何より、できるだけ痛みを抑制することになってきます。どのような治療がベストなのか、治療方針については、獣医師とよく話し合うことが大切です。

断脚:
検査で確認できなくても、骨肉腫の診断がついた時点でほぼ確実に肺転移は起きていると考えられます。この時点で行う断脚の目的は、がんの完治ではなく、激痛を取りのぞき、「生活の質」を維持することにあります。十分体力のある犬であれば、断脚後回復し、3本脚で生活できるようになります。

断脚とともに抗癌剤を用いることで、体内に残った腫瘍細胞の増殖を抑え、生存期間を伸ばすことができます。しかし一般的には、断脚手術と抗癌剤治療をあわせて行っても、術後1年間生存できる割合は3〜5割程度です。

老齢などのために断脚手術に耐えるだけの体力・気力がない場合には、断脚手術はかえって生活の質を下げてしまうことも考えられます。また、断脚という負担の大きい手術を受けたあと短期間のうちに亡くなってしまう可能性もあります。犬の年齢や体力、性格など考慮し、獣医師と相談のうえでベストな治療を選択してください。

化学療法:
断脚をしない場合も、放射線治療や抗癌剤などにより、比較的犬の体への負担が少ない治療をする選択肢もあります。効果の程度はさまざまですが、うまくいけば痛みをかなり抑制し、生活の質を保ちながら数ヶ月を過ごせることもあります。しかし、骨肉腫の進行を止めることはできないため、徐々に患部の痛みが増し、鎮痛剤でも抑えられない激痛となることも多くあります。そのような場合には、安楽死を決断しなければならなくなります。飼い主にとっては非常に辛い決断になりますが、犬のことを第一に考え、獣医師と相談しながら決断してください。

また、ウルフハウンドのような超大型犬の場合、腫瘍の治療には多額の費用がかかります。経済的理由で治療の選択肢が狭まってしまうこともあるでしょう。いざというときに備えて準備をしておくか、あらかじめペット保険に加入することをお勧めします。

 

運動

運動

超大型のサイトハウンドであるアイリッシュ・ウルフハウンドの運動については、小型犬や中型犬とは異なる点や、サイトハウンドならではの特性があります。健全な発育と健康維持のために、気をつけながら運動してください。

基本的に気をつけるべき点は、ライフステージにあった運動の量(どの年齢でも疲れすぎる前にやめること)、そして運動する環境(土や芝などの柔らかい地面の、安全な広い場所)のふたつです。


<仔犬・成長期の運動>

成長期は、体はどんどん大きくなるけれど関節や筋肉はまだ発達途中の時期で、激しい運動による負荷に十分耐えることはできません。健全な成長のためには適度な運動が必要ですが、一方で運動のしすぎ(長時間の運動や激しい運動)は骨や関節の問題の原因になるので、注意をしてください。

ウルフハウンドは成長が遅く、1歳半から2歳くらいまでは成長期です。成長期の終わりには体高の伸びが止まりますが、筋肉が十分発達するのはさらにその後です。長い成長期が終わる頃までは運動のし過ぎや運動環境にとくに気をつけてください。

運動をする場所はやわらかい地面、芝生や土、砂などが理想です。ウルフハウンドの仔犬は体重が重いわりに骨や筋肉が未発達なため、固い舗装道路やコンクリートの上での長時間または激しい運動は、関節や骨を痛める原因になります。なるべくアスファルトやコンクリートの地面では運動させないようにします。

他の成犬の大型犬との遊びも、仔犬にとっては危険なことがあります。ぶつかって衝撃を受けたり、体力の限界を超えて遊びすぎたりしがちなので、よく見守りながら遊ばせ、遊びが激しくなりすぎたり長引きすぎたときは早めにやめさせてください。

運動の前後に、歩様(歩き方、足取り)を気をつけて見る習慣をつけるとよいと思います。歩き始めたときの足取りが、重くなり疲れが見えたら運動のやめ時です。脚を引きずったり、後脚がぐらついたり、ひねるような感じで歩いていたりしたら、完全に運動のしすぎ。少し運動を減らしたほうがよいでしょう。運動後にマッサージをしたり、太り気味であれば少し減量するといったケアも有効です。


<運動量の目安>

適切な運動の内容や量は、その犬の体質や成長の速度などで違ってきます。ここで書くのはあくまで目安ですので、参考にしながら、ご自分の犬にあった運動をさせてあげてください。

ベビー・パピー:生後半年くらいまでは、とくに「運動」を意識する必要はありません。庭があれば庭で、1日に何度か、20分程度自由に遊ばせるくらいで十分です。そのほかに、リードをつけて歩く練習を短時間するとよいでしょう。室内では、仔犬のペースで動く分には自由にして構いません。床が滑りやすい場合は、滑り止めになるものを敷くなどしてください。

生後3ヵ月から:ワクチンも済んで散歩にでかけられるようになったら、散歩に出かけてさまざまな人や犬に会う経験も大切です。この時期にいろいろな経験をすることで、社会性が身についていきます。ただし、長時間の散歩や、自転車による運動はまだ避けてください。これは、仔犬が動きたいだけ運動させるようにして運動のし過ぎを防ぐためためと、硬い地面(アスファルトやコンクリート)が関節にダメージを与えるのを防ぐためです。様子を見ながら、疲れすぎないところで散歩を終わりにします。

生後6ヵ月頃から:すこしずつ運動を始めます。土や芝生など地面が柔らかい場所で、1日2回程度の自由運動が理想です。1回の運動の時間の目安は30分程度。これまでと同様、疲れ過ぎないように、様子を見ながら運動量を調節してください。体力がついてきたら徐々に運動を増やしても構いません。週に何度か長めの運動をし、その翌日の運動は軽めにするなどして、負担がかかりすぎないように調整します。


<成犬の運動>

成長期が終わり、筋肉も発達し、十分体力がついてきたら、それに応じて運動量も増やしていきます。リードをつけての散歩と、土や芝の地面での自由運動をバランスよく行っていくとよいでしょう。リードをつけて歩くだけでは、大型のサイトハウンドにとって十分な質の良い運動にはなりません。広い場所でのびのびとギャロップして走ることが、心身の発育に大切です。毎日できなくても、週に何度かは広い場所で走らせてあげてください。ただしあくまで安全な場所で、周囲には十分気をつけ、他の人や犬への配慮を忘れずに。

歩様をみながら、疲れすぎないうちに運動を終了することは、仔犬のときと同じです。激しい運動や長時間の運動のあと、また老犬などは、運動後にマッサージやストレッチをしてケアするとよいでしょう。定期的に専門医のリハビリテーションを受けることも、足腰の故障の予防になります。

股関節・肘関節形成不全(CHD, ED)


股関節形成不全(Canine Hip Dysplasia; CHD; HD)・肘関節形成不全(Elbow Dysplasia; CED; ED)

当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


股関節形成不全および肘関節形成不全は、成長期の骨が形成異常をきたす遺伝性の病気で、大型犬、超大型犬に多くみられます。股関節形成不全がレトリバーやジャーマンシェパードなど多くの犬種で問題となっていることはよく知られています。

アイリッシュ・ウルフハウンドでは、股関節形成不全よりも肘関節形成不全のほうが発症率が高くなっています。いずれも軽度の場合は気がつかないことも多いため、とくに繁殖犬では繁殖前にきちんとした検査・診断を受けることが大切です。


基本的には命に関わる病気ではありませんが、重度になるほど痛みや変形も大きくなり、犬にとって負担の大きい辛い病気です。

股関節形成不全(CHD)



股関節は、骨盤の寛骨臼(受け皿)と、それにはまり込む球状の大腿骨頭からなっています。先天的に寛骨臼のくぼみが浅かったり、骨頭と寛骨臼の間の靭帯が緩かったりすると、骨同士がぶつかって炎症が起こり、痛みを感じるようになります。これが股関節形成不全です。程度によって症状は様々です。

股関節形成不全は遺伝性疾患であることがよく知られていますが、環境にも大きく左右されることがわかっています。とくに成長期の肥満や、カルシウムの与えすぎなどには注意が必要です。

ドイツ・サイトハウンド・クラブ(DWZRV)がまとめた、1994年から1999年までの6年間の計776頭の検査結果では、股関節形成不全と診断されたのは5.4%でした。アメリカのOFAのデータでは、1974年から2014年の間に診断を受けた1917頭のうち、4.5%が形成不全と診断されています。検査を受けていない個体が多いため正確な数値ではありませんが、少なくとも5%程度以上のウルフハウンドが股関節形成不全を発症していると考えられます。


<症状>

股関節に痛みがあると、散歩を嫌がる、ジャンプや早足を嫌がる、走る時にうさぎ跳びになる、すぐに座り込んでしまう、といった行動が現れます。お尻を左右に振りながら歩く歩き方(モンロー・ウォークと言います)も股関節形成不全による典型的な症状です。ひどい場合には、股関節が出っ張り、また腿の筋肉も発達しないため、後ろから見たお尻のシルエットが箱型から逆三角形に見えるようになります。


<診断>

股関節形成不全の疑いがあれば獣医師の診察を受け、必要ならレントゲンを撮ってもらいましょう。ただし、少なくとも生後4ヶ月を過ぎないと診断をすることはできず、確実な診断ができるのは生後7~8ヶ月以降になります。

股関節形成不全の診断のためのレントゲン撮影は、通常麻酔なしでできます。かかりつけの獣医病院でレントゲン写真を撮ってもらい、JAHD(日本動物遺伝病ネットワーク)OFA(Orthopedic Foundation for Animals、アメリカ)などの検査機関に送ると、形成不全の程度を細かく正確に診断してもらえます(非営利団体のため料金もリーズナブルです)。

なお2006年より、JAHDの診断結果がJKCの血統書に記載できるようになりました。


<原因>

遺伝病ですが、それに加えて成長期の環境によって悪化することがわかっています。ある研究によれば、成長期に好きなだけ食べさせた犬と、食事の量を制限した犬では、股関節形成不全の発生率にはっきりとした差がでています。成長期の肥満が原因のひとつなのです。また、偏った食事や、過剰なカルシウム(ドッグフードにカルシウムを足すなど)といったことも原因となることがあります。

ウルフハウンドは「ゆっくり成長させることが大事」と言われます。成長期に太らせてしまうと、必要以上に急に体重が増え、股関節だけでなく関節全体を痛める原因となります。早く大きくすることより、「ゆっくり育てること」が、健康な関節をつくる第一歩となります。


<予防>

遺伝病であるため、仔犬を選ぶ時には、親犬や血縁の犬に股関節形成不全が発生していないことを確かめてから、健康な仔犬を入手することです。

成長期に太り過ぎにならないよう注意します。生後3〜4ヵ月頃にはお腹がぽっこりふくれた赤ちゃん体型から、少年期の体型へと変わります。それ以降はどちらかというと痩せ気味の体型を維持します。成長期が終わる1歳半過ぎまで気をつけましょう。

カルシウムの摂り過ぎが骨の正常な成長を阻害することも知られています。ドッグフードは大型犬用のものを選び、カルシウムを加えたりしないようにしましょう。(手作り食の場合は、カルシウム不足になりがちなため、カルシウムの添加が必要ですが、この場合も与え過ぎには十分注意してください)

成長期の激しい運動のしすぎも関節の負担になり、症状を悪化させます。成犬の大型犬との激しい遊びなども同様です。十分な運動は必要ですが、激しい運動のしすぎ、滑りやすい床や固い床面での激しい動きなど、関節に負担となるようなことは極力避けるようにします。

股関節は、誕生時にはほとんど形がありません(関節がない)。その後成長とともに、徐々に受け皿(寛骨臼)とそこにはまり込む球(大腿骨頭)が形成されていきます。順調に成長していても、成長過程で一時的に筋肉や靭帯、骨の成長がアンバランスになることはあります。その時に負荷が大きい(体重過多や激しい運動など)、形成途中の関節に異常が生じる可能性が高くなるのです。 


<治療>

軽症であったり痛みが少ない場合には、体重や運動量を制限して関節への負担を軽減し、ある程度進行を抑えることができます。この場合、補助的にグルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントを与えると、人間と同様に効果があることがわかっています。

痛みが強い場合や、関節の変形が重度の場合は、手術が必要になります。大型犬では股関節を人工関節に置き換える、股関節全置換術なども行われていますが、現在使用されている人工関節は超大型犬の体重には耐えられないことがあります。万一股関節に問題が出てしまったら、大学病院の整形外科や、股関節形成不全を多く扱っている専門医に相談することをお勧めします。


肘関節形成不全(CED)

肘関節形成不全は、肘突起癒合不全、内側鈎状突起癒合不全、肘の離断性骨軟骨症(OCD)の総称です。肘関節を構成する上腕骨と前腕骨(橈骨および尺骨)のいずれかの骨の成長に異常が起こることによって肘関節が正常に形成されなかったり、肘関節にOCDを発症し、炎症や痛みが起きる病気です。両前足の肘に形成不全が起きる場合と、片側だけの場合があります。

アメリカのOFAのデータによると、1974年から2014年の間にOFAで診断を受けた783頭のウルフハウンドのうち、12.6%の犬が肘関節形成不全と診断されました。発症率は114犬種中では28位で、かなり多いと言えます。

遺伝性疾患であり、今後この病気が増えないように、繁殖の際には必ず検査・診断を受けるなどの注意が必要です。


<症状>

跛行(脚をかばう)、歩く際に前脚の動きがおかしい(ばたつく)、肘が外側に出ている、長時間立っていられず座ったり伏せたりすることが多い、運動を嫌がる、寝ている状態から起きたときに動きがおかしい(固まる)、肘が腫れているように見えるといった症状がみられます。しかし軽度な場合には、ほとんど症状を示さないこともあります。


<診断・予防>

上記の股関節形成不全の場合と同様です。


<治療>

完全に発症前の状態に戻すことはできません。

軽症の場合や痛みが少ない場合には、体重や運動量を制限して負担を軽くすることで、ある程度進行を抑えることができます。

必要に応じて、関節の炎症を抑えるための抗炎症薬などを投与します。補助的にグルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントを使用するのも効果的でしょう。

痛みが強い場合や、関節の変形が重度の場合は、手術が必要になります。

仔犬の食事

仔犬の食事


超大型犬はゆっくり育てることが大事。早く大きく育てようと沢山高カロリーな食事を与えるのは逆効果です。成長時期に太らせると、骨や内臓に負担がかかり、かえって成長を阻害することにもなりかねません。生後3ヵ月以降は、細めの体型を維持するようにこころがけます。そのため、一般的な仔犬向けの高たんぱく・高脂肪・高カロリーの食事は、超大型犬にはあまり適しません。


<食事の選択>

大きな体を作っていく食べ物はとても大事です。ドッグフードは多種多様な商品が売られていますが、材料の質の高いもの、また品質管理の行き届いた店で購入するようにします。「大型犬用」があればそちらを選んだほうが無難です。

手作りにするのであれば、ある程度基本的な栄養学について学んだ上で、犬にあった内容を考える必要があります。

ドッグフードに少量の肉や、消化しやすく刻んだり煮たりした野菜をトッピングするのもよいと思います。


<栄養バランス>

仔犬の食事でとくに気をつけたいのは、たんぱく質の割合が高くなりすぎないことと、カルシウムが過剰にならないようにすることです。

ドッグフードの場合、たんぱく質の割合は一般に、生後半年までは29%程度、半年以降は24%程度がよいとされています。脂肪も、あまり多いものはよくありません(12%前後が目安ではないかと思います)。お腹の具合や太り具合、毛艶や肌のコンディションなども見ながら、その犬にあったものを見つけてください。

ただし、最近増えている「穀物不使用」のフードでは、たんぱく質、脂肪共に数値が高く、カロリーも高めです。また、とくに仔犬用、成犬用の区別がなく、全年齢用のものも多くみられます。こうしたフードの場合、上記の数値は当てはまりませんので、与える量に気をつけ、成長具合を注意深く見守りながら使っていくとよいでしょう。

カルシウムも要注意です。成長期の大型犬では、カルシウムは食事の全体量(乾物量=食事の重さから水分の重さを差し引いた重さ)の0.8~1.2%が望ましいとされていますが、これは、中・小型犬の必要量よりも少ない数字です。そのため、一般的な仔犬用フードの多くには、ウルフハウンドには多すぎるカルシウムが含まれています。カルシウムの摂取量は、少し多すぎる程度なら問題はありませんが、あまり多すぎると骨の変形などの成長障害をひき起こします。

ドッグフードにカルシウムを添加するのは絶対禁物です。手作り食の場合はカルシウムやミネラル、ビタミンなどを足してやる必要がありますが、その場合もカルシウムの与えすぎには注意してください。


<フードの切り替え>

早めに成犬用フードに切り替えることが勧められています。生後半年前後で成犬用フードに切り替えたり、あるいは離乳後から仔犬用フードに成犬用フードを混ぜることも、ウルフハウンドでは一般的です。これにはカロリーの摂り過ぎやカルシウムの過剰摂取を防ぐ効果もあります。

穀物不使用のドッグフードで全年齢用のものは、とくに切り替えの必要はありません。


<食事の回数と量>

1日の食事回数は、生後半年までは4回、それ以降1歳までは3回というのが標準的な目安です。

仔犬は体のわりに沢山のごはんを食べます。1回の食事で食べる量には限度がありますから、小さいうちは回数を多くしなければなりません。回数を3回に減らしたらごはんを残すようになった(痩せてきた)、という場合は、まだしばらく4回にしてやる必要があるのかもしれません。大柄な牡犬では、1歳半くらいまで3回やる必要がある子もいます。

1日3回や4回の食事は、毎回まったく同じものを同量与える必要はありません。1日の最後の食事は軽めにしてもよいでしょう。

与える量は、仔犬の太り具合をみて調整するのがベストです。目安となる摂取カロリーはありますが、個体差もあり、環境(室内飼・外飼い、気候や運動量など)によっても変わってきます。順調に成長し、体重・体高が伸びているというのが大前提ですが、そのうえで、余分な肉が体につかないようにしましょう。


血液検査の数値について

血液検査の数値について

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サイトハウンドの血液検査数値は、一般の犬の正常値とはずれるものがあることが知られています。ウルフハウンドの場合も同じ傾向があり、白血球数や血小板数が低め(正常値の下限、または下限をやや下回る)で、ヘマトクリットが高めの犬が多いようです。平常安定してその数値を維持しているのであれば、とくに問題はありません。

白血球数の上昇は感染症などの指標となりますが、日ごろからこの数値が低い犬では、何らかの原因で白血球数が劇的に上昇しても、一般的な「正常値」の範囲内に収まってしまい、獣医師の対応が遅れる可能性が考えられ、注意が必要です。

いざという時に迅速に的確な対応ができるように、年一回程度は定期的健康診断とともに血液検査を行い、健康時の数値を把握しておくとよいでしょう。

ウルフハウンドの犬種としての「正常値」についてのデータはありませんが、同じサイトハウンドであるグレイハウンドについてのデータを参考として掲載しておきます。


<参考:グレイハウンドの血液検査数値>

一般の正常値に対してグレイハウンドの正常値が高い・低いものを挙げています。

【普通より高い傾向】
・ヘマトクリット(PCV):正常値35〜50%、グレイハウンド45〜65%
  *グレイハウンドは35〜40%で貧血になっている可能性がある
・クレアチニン:正常値0.6〜1.6、グレイハウンド1.0〜1.7
・肝臓の数値ALT(GTP)、AST (GOP):やや高め

【普通より低い傾向】
・白血球(WBC):正常値4000〜15000/μl、グレイハウンド2000〜6000/μlがよくみられる
・血小板数:正常値150000/μl以上、グレイハウンド80000〜120000/μl
  *一般に50000を切ると血液の凝固異常が起き始める
・総タンパク:低め。正常値5.1〜7.1、グレイハウンド4.8〜6.3
・グロブリン:低め。正常値2.2〜3.9、グレイハウンド1.7〜3.0(アルブミンは普通)
・甲状腺ホルモン(Total T4, nMol/L):正常値20〜33、グレイハウンド8〜20


【参考ウェブサイト】
Greyhound Health Initiative

仔犬の敗血症

仔犬の敗血症(puppy sepsis)

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アメリカのアイリッシュ・ウルフハウンド・クラブ(IWCA)は、ウルフハウンドの仔犬が、些細なケガが原因で急速に敗血症となって1日たたずに落命したケースを紹介し、注意を呼びかけています。初期の症状としては、痛みと、それにともなって脚をかばうような動作をみせる程度ですが、早急に抗生剤の投与が必要となります。

このようなケースがウルフハウンドに多くみられる傾向かどうかは、この例だけでは判断できませんが、ウルフハウンドでは昔から"Joint ill"(関節病)の名前で知られていたものが、これに当るとされています。

しっぽのケガ


しっぽのケガ


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しっぽの長さは尾椎の数によって個体差がありますが、ウルフハウンドは一般にかなり長いしっぽを持っています。その長いしっぽを思い切り振るのは、凶器のようなもの。自分のしっぽの先端を傷つけてしまったり、折ってしまうことがあります(もちろん周囲のヒトやモノも被害にあいますが…)。ちょっとしたケガなら問題はありませんが、繰り返し傷つけたり、骨折してしまったりすると、意外と治りづらく面倒です。


<治療と予防>

ケガの治療は、病院で手当を受けましょう。しっぽの先は痛覚がないためか、先端をケガすると、さらにぶつけたり、自分でかじって悪化させてしまう場合もあります。そうなると治りづらくなるので、治るまではよく気をつけて見ている必要があります。

繰り返し傷つけてしまう場合は、治るまでしっぽに保護用のバンデージを厚めに巻いたりカバーで被うなどします。しっぽが当たる場所がある程度限定されていれば(家具など)、その場所にクッションになるものを貼りつけてしまうのも有効です。

肘腫の治療ほどではありませんが、しっぽの怪我も、バンデージを自分で取ってしまったり、周囲に当たるのを十分防ぐことができなかったりして、治療が長引くことがあるようです。

原発性繊毛運動異常(PCD)

原発性繊毛運動異常 (Priamry Ciliary Dyskinesia; PCD)

別名:アイリッシュ・ウルフハウンド鼻炎

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この疾患は何十年も前から知られていますが、以前はウイルスか免疫不全によるものと考えられていました。しかし近年になって、そのどちらでもなく、繊毛の運動異常が原因であることが分かりました。

正常な呼吸器(鼻や気管)の粘膜には繊毛と呼ばれる微細な毛が生えており、これらがエスカレーターのように動いてゴミや細菌、ウイルスなどの異物を排泄します。PCDにかかっている犬では、この繊毛の動きが悪化したり、あるいはまったく動かなくなりするために、重度の鼻炎や肺炎を起こすと考えられています。

PCDは遺伝性疾患であり、常染色体劣性遺伝であると考えられています。現時点ではPCDの遺伝子検査は出来ず、劣性遺伝であるため、症状のない両親から雄雌を問わず罹患犬が出る可能性があります。罹患した仔犬の血統は繁殖に使わないなどの注意が必要です。


<症状>

すでに出生時に子犬に鼻汁が見られることがあります。こういった仔犬は通常重度で、数週間以内に死亡します。時に出生後何ヶ月、あるいは何年も症状を出さない場合もありますが、症状の程度は非常に様々です。

最初は水様の鼻汁ですが、徐々に膿状から血様の排液となります。通常、この排液は誕生直後から認められ、短期間のうちに慢性化したり再発します。多くの犬は慢性の湿性の咳をし、典型的には肺炎により若いうちに死亡します。ほとんどの場合、1胎の一部だけが罹患し、残りの仔犬たちは一緒に飼われていても健康に過ごすことができます。


<治療>

治療の中心は抗生物質です。

罹患した犬のなかには、抗生物質を与え続けていないと肺炎に移行してしまう犬もいます。肺炎を起こした場合は、ネブライジングなどの対症療法が必要になる場合もあります(「急性肺炎」の項目を参照)。


【参考ウェブサイト】
・Irish Wolfhound Foundation: Wolfhound Rhinitis/ Primary Ciliary Dyskinesia

リンパ腫

リンパ腫(リンパ肉腫)(Lymphoma, Lymphosarcoma; LSA)

当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。

リンパ腫はリンパ球と呼ばれる白血球の一種が腫瘍化する悪性腫瘍で、リンパ節、消化器、胸部など全身に発生します。犬の最も一般的な腫瘍の1つで、ウルフハウンドでも骨肉腫についで発生が多く、悪性腫瘍による死因の15.7%、全死因の5.3%がリンパ腫であったという調査があります。

犬種によって発生率に差があることから遺伝素因があるとされていますが、遺伝以外の要因も関連すると考えられています。中~高齢犬に多くみられます。

リンパ腫は、発生部位により4つの型に分けられます。
①多中心型:全身のリンパ節から発生し、脾臓、肝臓、骨髄を侵す
②縦隔型:縦隔リンパ節から発生する
③消化管型:胃、あるいは腸、消化管リンパ節に発生
④節外型:上記以外の様々な器官、組織(腎臓、神経、眼、皮膚)が侵される

犬に多いのは多中心型で、リンパ腫のおよそ8割がこのタイプです。


<症状>

型により、あるいは進行程度によって様々な症状がみられます。

多中心型の場合は、顎の下や肩、膝の裏などの全身の体表リンパ節が腫れてきます。また、縦隔型の場合は呼吸困難や咳、消化管に発生した場合は嘔吐や下痢を繰り返して体重が減るなどの症状があげられ ます。しかし、内臓にできた場合は症状が曖昧なことも多く、進行して貧血などを伴った状態で初めて発見されることも稀ではありません。

治療しない場合の余命は平均1~2ヶ月で、様々な臓器に転移して徐々に衰弱していきます。


<診断>

細胞診もしくは組織検査、遺伝子検査で診断します。

同時に血液検査、レントゲン、超音波検査、尿検査などで全身の状態、転移の有無などを確認します。


<治療>

治療方法は化学療法(いわゆる抗癌剤治療)が中心で、例外的なケースを除いて手術は行ないません。

抗癌剤治療には様々なバリエーションがありますが、リンパ腫は抗癌剤への反応が良いことで知られ、 多くの場合抗癌剤でがん細胞を叩きながら生活の質を維持していくことができます。しかし、抗癌剤によって癌を完治させられる可能性は非常に低く、ごく少数の腫瘍細胞は残ってしまいます。目に見える、あるいは検査でわかるがん細胞がなくなった状態を寛解といいますが、一度寛解してもいずれはリンパ腫が再燃し、再度化学療法が必要になります。

完治は困難なため、普段の生活に影響が出ないように延命することが治療の目的となります。

おおよその目安として、抗癌剤治療(化学療法)を行った場合の平均余命は8ヵ月、2年間生存する割合は25%とされています。


離断性骨軟骨炎(OCD)

離断性骨軟骨炎(Osteochondorosis;OCD)

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OCD は発育期、とくに5~10ヶ月の仔犬に起こりやすい病気で、関節の軟骨が小さく欠けて「関節鼠」となり、関節炎を起こします。


成長期の骨の両端には、成長板と呼ばれる軟骨でできた組織があり、これが骨に変化しながら伸びていきます。成長板になんらかの負担がかかると、軟骨細胞に障害が生じて正常な骨への分化ができなくなり、軟骨にひび割れや亀裂が生じます。これが関節まで波及すると関節炎を起こします。さらに関節の軟骨が部分的に剥離するとし、それが関節の内部で遊離して「関節鼠」となります。

OCDは手首や肘、股関節などほとんどの関節に起こりますが、超大型犬では肩関節に多く発生します。成長板に障害が生じるため、脚の成長に影響することがあるので注意が必要です。


<症状>

無症状のこともありますが、通常は跛行(脚をかばう動作)をします。肩関節の場合、関節を伸ばしたときに痛がることが多いようです。跛行はしばらく休ませると一時的に治ってしまうこともありますが、運動を再開すると悪化します。病気の初期で、炎症が起こらなければ痛みもありませんが、ほとんどは次第に悪化していきます。


<診断>

レントゲン検査、関節鏡で行います。


<原因>

大型犬・超大型犬に多く、とくに雄で発生率が高く(雌の3倍)、また過剰なカルシウム投与、栄養過剰などが危険性高めることが研究によってわかっています。豚についての研究では、骨軟骨症(OCDの前段階)の発生率と重症度は、体の成長の速度と直接関連があることが示されています。

また、遺伝的な素因がある可能性も指摘されています。

いずれにしても、成長期に、関節に過剰な負荷をかけることが主な原因となるようです。


<予防>

経験豊富なブリーダーは、高いところからジャンプしたり落ちたりして、関節に大きな衝撃が加わることも原因となると考え、仔犬には車への飛び乗り・飛び降り、階段昇降などをさせないようにとアドバイスしています。

また、激しい運動は避け、長時間の運動や、成犬の大型犬との遊びなどにも注意が必要です。



<治療>

軽症の場合は消炎鎮痛剤や運動制限によって治療できますが、重症になると手術で関節鼠を取り除いてやる必要があります。


線維軟骨塞栓症(FCE)


線維軟骨塞栓症(Fibrocartilaginous Emboli ; FCE)

別名:脊髄梗塞(Spinal Cord Infarction)



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脊髄の梗塞により急性(2~6時間)に四肢の麻痺が進む病気です。多くの犬種では中年齢で発生することが多い病気ですが、アイリッシュ・ウルフハウンドでの発症は非常に早く、生後6~16週の仔犬に多く発生します。

現在のところ、この病気には遺伝性はないようだと考えられていますが、ウルフハウンドには幼齢のうちに発症しやすい傾向があります。FCEが疑われる症状に気がついたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


<原因>

繊維軟骨塞栓症(FCE)は脊髄梗塞とも呼ばれ、線維軟骨性の組織が脊髄内の血管に詰まって発症します。この組織は、髄核と呼ばれる椎間板の中心にある組織に類似しているため、これが塞栓を起こすとも考えられていますが、どのようにして血管に侵入するのかは分かっていません。

塞栓症とは「血流に乗って運ばれた固体や気体によって血管がつまること」を意味します。血管が詰まると、その血管から血液とともに酸素や栄養を供給されていた細胞が死に、これを「梗塞」といいます。「心筋梗塞」も同じ原理です。




<症状>

症状だけでFCEと診断することはできませんが、典型的な症状は以下のようなものです。
活発で正常な仔犬が、激しい運動や外傷の後、あるいはまったくきっかけなく発症し、急に立ち上がることができなくなります。立たせても歩くことはできず、座り込んでしまいます。
発症から2~3時間は症状が悪化し、初期には痛みを示すこともありますが、痛みは数時間でおさまり、麻痺だけが残ります。麻痺は足1本だけの場合もあれば、片側だけの場合、あるいは四つ足全ての場合もあります。重症の場合は呼吸にも変化が見られます。


<診断>

若齢の仔犬に、急性でありながら非進行性で、痛みがない四肢の麻痺が認められた場合、FCEが疑われます。しかし、似た症状をおこす病気は他にもあるため、触診による神経検査や、麻酔下で行う脊髄造影、MRI検査などによって他の病気がないことを確認する必要があります。



<治療>

最も重要なのは、発症から24時間以内に静脈から強力なステロイド剤の点滴注射をすることです。FCEに限らず、神経を損傷した場合、損傷を受けてから治療を行うまでの時間が非常に重要です。発症してから治療するまでの時間は短ければ短いほどよく、24時間を越えると治療の効果は非常に出にくくなります。この際に、必要があれば抗生物質も用います。



<予後>

診断後、ほとんどの犬は24~36時間以内に安定した状態になります。その後、2~3週間以内に順調な回復が見られなければ、その後の充分な機能回復は難しいでしょう。

FCEにかかった仔犬の大半は、中程度のケアを要しつつ、幸福に痛みのない生活が送れる程度の活動性を取り戻すことができます。運動機能の回復と維持のためには、マッサージや鍼治療、カイロプラクティクス、水泳などを取り入れるとよいでしょう。

神経に永続的な障害が残ってしまった場合は、完全な回復は望めなくなります。麻痺が下半身から頭に向かって進行する兆候があれば、非常に深刻です。不幸にして塞栓症が多発していたり、脊椎の上部に起こった場合、死亡するケースもあります。





門脈体循環シャント(PSS)


門脈体循環シャント(Portosystemic shunt; PSS)


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門脈とは、消化器と肝臓を結ぶ血管です。それが奇形になる病気を門脈シャントと言います。

門脈シャントになると、本来肝臓に流入するはずの血液が短絡路(シャント血管)に入ってしまうため、肝臓に十分血液が供給されなくなります。そのため肝臓が十分に成長できず、正常に機能しなくなってしまいます。また、肝臓は消化管で吸収した栄養を代謝し、有毒物質は排泄するなど、生体にとって非常に重要な機能をつかさどっています。したがって、主たる栄養供給路である門脈からの血流が減少することで、成長障害など重大な問題が起こります。

門脈シャントには2つのタイプがあります。
1)肝外シャントは、シャント血管が肝臓の手前で分岐しています。猫や小型犬に多く見られます。
2)肝内シャントは、シャント血管が肝臓の中に形成され、手術が大変難しくなります。大型犬に多く見られます。

門脈シャントは、心臓病、股関節形成不全とともにアイリッシュ・ウルフハウンドの遺伝病のひとつとして問題になっている病気で、発症率は2〜4%だとされています。1988年にノルウェーで行われた調査では、54胎中12胎で門脈シャントを持つ仔犬が見つかりました。また、1995年にはオランダのメイヤーが、アイリッシュ・ウルフハウンドの肝内シャントが遺伝的要因によるものであると報告しています。アメリカの遺伝病研究でも遺伝性が指摘されています。


<原因>

胎児期には、子犬は母親の血液をから栄養をもらっているため、子犬の肝臓は働いていません。そのため胎児期には、全身を回って心臓に戻ってくる血流は肝臓を通過せず、シャント血管を通り、大静脈から直接心臓へと流れ込みます。通常このシャント血管は生後すぐに閉鎖し、血液は肝臓へ流入してから心臓へ流れるようになりますが、このシャント血管が何らかの先天的異常で閉鎖しないと、肝内シャントとなります。

先天性の異常ですが、遺伝的な要素が指摘されています。


<症状>

門脈シャントを持つ犬は、シャント血管の場所や太さによって様々な症状を示します。先天的な異常であるため、仔犬の時から同腹子と比較して体格が異常に小さく、体重が増えないなどの発育障害を示します。重篤な場合は成長できずに死ぬこともあります。食欲不振、沈うつ、嘔吐、下痢、多飲多尿などもみられます。

門脈シャントが原因で尿石症が起こると、血尿、排尿困難になる場合もあります。また、解毒ができないために体内に蓄積される有毒物質が原因で、運動失調、脱力感、昏迷、頭を押し付ける、円運動、発作あるいは昏睡といった神経症状を呈することもあります。神経症状は高タンパク食を与えたあとに悪化しますが、これは食事中の蛋白質代謝物が毒素となるためです。また、肝機能の低下により、麻酔の覚醒が遅くなります。

ただし症状の程度はシャント血管の太さや場所に左右されるため、時には全く症状を示さず、高齢になってから病気が発見されることもあります。


<診断>

上記のような症状と、各種の検査によって診断をつけることができます。レントゲン検査では小さい肝臓や腫大した腎臓が、血液検査では肝機能不全や貧血が認められます。また、一部の犬では膀胱や腎臓に結石ができることがあります。

確実な診断は、超音波検査や開腹によるシャント血管の確認、手術中の門脈造影などによって下されます。大学病院など設備の整った動物病院へ行く必要があります。


<治療>

治療は通常外科手術によって行なわれ、肝外シャントの場合はシャント血管を特殊な器具で閉鎖する方法が一般的です。しかし、シャント血管が肝内にある肝内シャントの場合は手術が非常に困難なことが多く、治療が難しくなります。

手術以外の治療は点滴や低蛋白食、抗生物質などの内科的な対症療法に限定されています。

重度の肝内シャントを発症した場合、子犬は生まれてすぐ、あるいは数ヵ月で死ぬことも多い病気です。遺伝的な要素が指摘されているため、門脈シャントの遺伝子を持つ可能性がある犬は繁殖に使わないことが、唯一の予防策と言えます。発症していなくても遺伝子を持っている犬もいるため、とりわけ交配を行なう際には、兄弟犬、両親やその兄弟犬、祖父母の代に門脈シャントを発症した犬がいないか、確認をすることが大切です。


<仔犬のスクリーニング検査>

欧米では、生まれた子犬全頭のシャント検査を行うことは、ブリーダーの責任であると考えられています。イギリスのウルフハウンド・クラブの倫理規定には、子犬のシャント検査をすべき旨が明記されています。全頭検査によって、シャントが(子犬が新しい親元へ行く前に)早期発見できることに加え、その後のブリーディング・プログラムの指針とすることで、将来的にシャントの発生を減らしていくことにつながります。今後、日本でもシャントの全頭検査が広く行われるようになることで、犬種の健全性が向上することを願っています。

子犬のシャント検査は、生後8週目頃以降に、血液検査によって行います。食前および食後に血液を採取し、胆汁酸の値を計測します。胆汁酸の値は食前で1~30が正常値とされています。胆汁酸の値が大きいほど、また食前と食後の値の差が大きいほど(食後の値が40以上;多くの場合100を超える)、シャントの疑いが強まります。疑いがある場合は再検査を行い、やはり値が高ければ、超音波検査等による確定診断を受ける必要があります。

なお、シャントの検査にはアンモニアの値を測る方法もありますが、ウルフハウンドでは有効な検査方法ではないことが確認されています。これは犬種の特異性として、ウルフハウンドの若い犬で全般にアンモニア値が低いため、シャントの犬と正常な犬の数値が大幅にオーバーラップしてしまい、アンモニアの値がシャントの有無を表す有効な指標とはなり得ないからです。検査を受ける場合は、獣医師にその点を説明の上、必ず胆汁酸のテストをしてもらってください。

なお、胆汁酸による検査は、成犬でも行うことができます。軽度なシャントの場合、特にめだった症状がないまま成長する場合もあるため、子犬の時に検査を受けていない場合、成犬でも検査をする意義があります。
 
シャント検査の方法などについて詳しく知りたい方は、当HPまでお問い合せください。


【参考ウェブサイト】
・Irish Wolfhound Foundation: Liver Shunt (PSS) in the Irish Wolfhound (http://www.iwfoundation.org/articles_detail.html?item_id=26&year=2005
・Cornovi Irish Wolfhound: Portosystemic Shunt (PSS) in the Irish Wolfhound(http://www.cornovi-iw.co.uk/livershunt_page.htm


アイリッシュ・ウルフハウンドの急性肺炎の一例(症例報告)

ゼファー動物病院の上条先生が、ウルフハウンドの急性肺炎の症例報告を書いてくださいました。また、飼い主さんも入院までの手記を書いてくださいましたので、あわせて掲載いたします。いつもと変わりない朝の様子から、発熱、ICUへの入院まで、約半日の間の出来事。様々な経過がありえますが、参考にしていただければ幸いです。


入院までの経過(飼い主さんの手記 2010.3.31)

7:45 食餌:いつもと変わりなし。食欲旺盛。
8:00 痰が絡んだ様に喉がゴロゴロいう(30分ほど)。
8:20 たまたま別件でかかりつけの獣医師に電話。マロンの状態を話す。
  *抗生剤(バイトリル2錠)を飲ませ、散歩は簡単に済ませるようにと指示を受ける。
8:40  抗生剤服用 (この時点では、抗生剤を飲ませるのは、過剰反応のように感じていた)

9:00  散歩:とてもご機嫌で元気。小走りするように家を出る。排便、排尿、変わりなし。(この時点ではもっと散歩したいような気持ち。指示に従い仕方なく簡単に済ませる)
9:15  帰宅。熱を測ると40℃(歯茎の色、目の様子は通常の範囲内だと思う)
9:45 先生に連絡、熱の報告。
  *散歩の後だから高いのかもしれないから、落ち着いた頃もう一度測るようにと指示を受ける。
11:00 熱を測る。39.5℃
   この時点での状態:立ったままで寝ない。寝かせると嫌がり起きる。口を開けたまま速く荒い呼吸。2度ほどケッと喉に引っ掛かったものを吐くように唾液(?)を吐く。お腹の張り、なし。 ペッチャンコ
   調子が悪そうなので、午後一番の診察に間に合うように病院へ行くことにする。先生に連絡。
14:10 病院に到着
14:20 診察。熱40.6℃。血液検査、レントゲンの結果、急性肺炎と診断され即入院。ICUに入る。


症例報告
アイリッシュウルフハウンドの急性肺炎の1例


症例:犬種 アイリッシュウルフハウンド 雌 避妊済み 8歳9か月
   体重 51,5 ㎏

稟告:朝から喉に何か絡むような仕草をする。散歩は普通に歩き、食事も普通に採った。

経過および治療:
飼い主様からこの様なお電話をいただいた場合、すぐにご来院いただけない時には、このまま経過観察として、症状の顕在化、悪化等が認められたなら来院いただく事にする事が多いのですが、本犬種の年齢、普段から呼吸器、循環器に何も持病が無いにも関わらず普段と違うという事が妙に引っかかり、念の為以前に他の疾患で処方したバイトリルだけ服用させていただき、午後に再度様子を連絡していただく事としました。

電話での話だけでしたが、胃捻転、肺水腫等の急を要する疾患の兆候は認められず、喉に何か引っかかったか、口腔内の歯牙疾患か、程度の認識しかありませんでした。

その後様子が芳しくないという事で、昼過ぎにご来院いただいた時には、すでに40度の発熱と、呼吸困難、可視粘膜の蒼白、チアノーゼが認められ、胸部のエックス線写真を撮ったところ右側前葉が白っぽく、含気の低下を示す炎症所見が得られ、血液検査にて白血球特にリンパ球の減少が認められ、CRP も3,15 と上昇していたため、急性肺炎と判断し、急遽ICU に入院させ、酸素吸入と抗生剤の投与、抗生剤と去痰剤のネブライジング等を開始しました。

症状の進行具合が急激なため、また、急性肺炎の場合最初から出来うる限りの手を尽くさねば生命にかかわる病気だという認識の下に、抗生剤はバイトリルにモダシンを併用し、酸素吸入と、インターフェロン3MU の注射、加えてゲンタマイシンをネブライザーにて1 日2 回吸引させました。

翌日はさらに症状が悪化し、CRPは14 まで上昇、左側後葉領域まで病変は拡大し、横になって眠る事が出来ない位呼吸状態は悪化しました。白血球は11000 まで上昇し、これも他犬種なら正常範囲なのですが、他のサイトハウンド同様、本症例は過去に白血球が6000 を超えた事がなく、正常値の倍の上昇と判断しました。ただし、白血球の増多は敗血症にはまだ陥っていないという事、また、起炎菌と戦う力が残っている証拠だと信じて出来うる限りの治療を続けました。

第3病日になり、白血球数は13,500、CRP は10 と、相変わらず高値を示し、呼吸回数も平常時が10~15 回/分の大型犬が30~36 回/分とかなり苦しい状態でした。救いだったのは昨日まで生気のなかった目に若干輝きが戻った感じがし、また、口元に食事を持ってゆくと自ら食べてくれたので、あと1 日頑張ってくれれば調子も上向きになりそうな気がしました。ただ、今の呼吸状態で体力的にどこまで持つのか、毎晩が山のような、危うい感じもぬぐえぬまま徹夜の看護を続けました。

第4 病日になり、体温が39,2 度と落ち着きを見せ、横になって眠る事が出来、また排泄のため外に出してもチアノーゼが軽度になった為、ICU の酸素濃度を35%から30%に減量しました。白血球数は6,600 までに下がり、CRP も5,4 と減少傾向となり、胸部のエックス線写真でも左側後葉領域も透過度が増加し、予断は許されないものの、良好な経過を示唆する兆候が確認されました。

以降、第8病日にCRP1,9 となり、ルームエアーにて呼吸困難を呈さなくなったのを確認して退院させ、自宅療養に切り替えました。抗生剤はアジスロマイシンの経口とし、モダシンとバイトリルは休薬としました。

退院後7 日経過した時点の血液検査ではCRP は0,1 までに下がり食欲も呼吸状態も元通りになり、念の為アジスロマイシンをもう7 日間追加投与し、治療を終了としました。

以降現在に至るまで症状の発現はなく、症例は先日、元気に9 歳の誕生日を迎える事が出来ました。

以上が簡単な経過の報告ですが、自分なりに大事なポイントだと思われる点を列記しますので参考になればと思います。

1:文字通り急激な進行が特徴で、午前中の発症兆候から午後の肺炎所見に至るまで数時間しか経過していない。この為、1 日様子を見たり、初期の異常に気付くのが遅ければ命取りになっていた可能性が高い。

2:今回は飼い主さんがよく観察をしていて、わずかな兆候を見落とさなかった事、幸運にも初期の段階に強い抗生剤を投薬した事、酸素吸入、ネブライザー、インターフェロン、抗生剤の2剤併用と、考えうる治療を出来る限り早期から高濃度に始めた事など全てが良い方向に経過し、一命を取り留める事が出来た。

3:退院後も気を抜かずに抗生剤(アジスロマイシン)を2 週間投薬した事が現在再発もなく元気に過ごせている要因の一つだと個人的には思っている。

4:老齢な大型犬を長期に寝たきりで入院させると確実に四肢が弱り、回復後も起立や歩行に困難が生じる可能性が高いので、本症例は入院中もできる限り四肢の屈伸やマッサージを行い、早期に歩行が開始できるように配慮した。また、入院中、何回も体の向きを変えて片肺が虚脱してつぶれないように配慮した事などが速やかな回復や、退院後の早期の四肢の機能の回復に役だったと思われる。


以上

ゼファー動物病院院長 上條圭司


心臓病/拡張型心筋症

心臓病/拡張型心筋症 (Dilated Cardiomyopathy)

当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


心臓病は中年から高齢の犬に起こることが多く、何となく元気がない、疲れやすい、といった軽い症状から、咳や呼吸困難、チアノーゼ、失神といった重い症状まで様々な症状を表します。一口に心臓病と言っても多くの病気がありますが、ここではウルフハウンドに多い拡張型心筋症について述べます。

心臓疾患はウルフハウンドに多くみられ、主な死因のひとつとなっています。アメリカでの大規模な調査によると、ウルフハウンドの死因の15.1%が心臓病によるもので、死亡時の平均年齢は7.3歳となっています。各国の統計でも死因の約20%前後が心臓病となっており、ウルフハウンドの死因トップ3のひとつです。


<拡張型心筋症(DCM)>

拡張型心筋症は、心筋の収縮力が低下していく病気です。大型犬や超大型犬に多くみられ、発生率は年齢とともに上昇します。拡張型心不全が原因で心不全を起こすのは4~10歳と言われています。また、雌よりも雄の方が発生率が高いという報告がありますが、ウルフハウンドでは発症率の性差はないとされています。  

拡張型心筋症を起こすと、心臓が十分に収縮できなくなり、心臓から押し出される血液の量が減るため、全身の酸素が欠乏します。酸素が足りなくなると、心臓はより多くの血液を送り出そうとして拍動の回数を増し、それによって心臓への負担が更に増す、という悪循環に陥ってしまいます。心臓のポンプ機能が落ちるため脈拍が増したり、不整脈が起こることもあります。


<症状>

初期には元気がなく疲れやすい、呼吸が速い、食欲がない、といった症状が表れます。

進行すると、咳をする、衰弱する、失神するといった症状もでてきます。また、筋肉が減り、急激に痩せてしまうことがあります。  

心臓が悪い場合、肺や腹部に水がたまることがあります。肺に水がたまると呼吸困難や咳といった症状が、また腹部に水がたまった場合はお腹がぽっこりと膨れてきます。

心不全や不整脈によって突然死亡してしまうこともあります。


<原因>

犬の拡張型心筋症の多くは原因不明ですが、遺伝、炎症、中毒(抗癌剤の副作用)、栄養素(タウリン、L-カルニチン)の欠乏なども原因となります。ウルフハウンド、ドーベルマン、ボクサーなどでは遺伝的な素因が関与していると言われています。

<診断>

聴診、レントゲン、心電図、超音波(エコー)検査によって診断します。とくにエコーについては、できれば心臓病専門医の診断を受けたほうがよいでしょう。


<予防策>

心臓病の多くは原因不明なため、残念ながらこれといった予防法はありません。ただし、遺伝することが知られているため、子犬を飼う際は両親犬の血統を良く調べること、ブリーダーが繁殖犬の心臓検査をきちんと行っているか確かめるといったことも重要です。

ウルフハウンドでは、拡張型心筋症を発症する犬のほとんどは、それ以前に心房細動(AF)が見られると言われています。とくに健康状態に異常がなくても定期的に心臓検診を受け、心房細動が見られる場合には経過に注意することが必要です。(ただし、心房細動のある犬が必ず拡張型心筋症を発症するわけではありません)。多くの病気について言えることですが、早めの診断と治療開始によって、その後の状態を長く良く保つことが可能になります。

拡張型心筋症は遺伝性が確認されているので、心臓検査を徹底し、注意深い繁殖を行うことによって発症率を減らすことができます。多くの国の犬種クラブでは、繁殖犬の心臓検査を義務付けまたは推奨しています。


<治療>

一度DCMを発症すると、完治させることはできません。治療は内科的な対症療法が主体となり、心臓への負担を和らげ心機能を強化することで症状の悪化をできるだけ遅らせます。

DCMの治療に使われる代表的な薬:
・血管拡張薬(血圧の低下、うっ血の改善)
・利尿薬(うっ血の改善)
・抗不整脈薬(心拍・不整脈の減少、心臓収縮力増強)
・カルシウム感受性調節薬(血管拡張・心臓収縮力増強)
・サプリメント類: L‐カルニチン、CoQ10、タウリンなど

劇症心不全:呼吸困難、虚脱、食欲不振などが起こり症状が重い場合には入院が必要になります。点滴や酸素吸入をしながらケージ内で安静に保ちます。

日常的なケア:適正な体重を保ち、過度な運動や興奮は避けること。室温は涼しく保ちます(夏場)。また塩分に気をつけ低塩分食にします(ナトリウム摂取量≒13~30mg/kg/日。ドライフードの場合、塩分量0.1~0.25mg/100gのもの。重症になるほど厳しく制限する必要がある)。


拡張型心筋症の予後は、一般的にあまり良いものではありません。ほとんどは症状が出てから3カ月以内で死亡するとされています。しかし、初期の治療で反応がよければ6ヶ月~2年以上生きる犬もいます。ウルフハウンドの場合、拡張型心筋症は比較的治療効果が出やすく、犬種の寿命を大きく縮める病気ではないとされています。



【参考文献】
・Dr. Serena Brownlie "Heart Disease in the Irish Wolfhound"
・Dr. William D. Tyrell "Heart Disease in the Irish Wolfhound" Irish Wolfhound Foundation 2014 (http://www.iwfoundation.org/articles_detail.html?item_id=44&year=2014)
・Andrea C. Vollmar, Philip R Fox, Bruce W Keene, Vincent Biourge, Ottmar Distl, Cornelia Broschk, "Heart screening results of more than 1000 Irish Wolfhounds: Prevalence of dilated cardiomyopathy, survival characteristics, whole blood taurine & DCM inheritance"  The Irish Wolfhound Club Magazin 2005.



獣医師向け「アイリッシュ・ウルフハウンドの急性肺炎:診断と治療」


ウルフハウンドの急性肺炎は急激に重症化し、半日〜1日で死に至ることもある。一般的な犬の肺炎とは症状の進行が異なる。獣医師の判断の遅れ・誤り(心臓疾患との見誤りなど)により命を落とす例が非常に多い。早期に強力な治療をすることが鍵となる。


<症状・診断>

ウルフハウンドの急性肺炎は、ほとんど症状が出ないまま進行していることが多い。そのため早期に獣医師の診察を受けても、誤診(心臓病との見誤りが多い)や重症度の見誤りが多い。しかし早期に治療を開始しないと、最初に異変を感じてから数時間で急激に悪化し、手遅れとなることがある。

いつもほど元気がない、疲れやすい、食欲が若干落ちている、頭をあまり上げない、目に力がない、飼い主のそばにいたがる、呼吸がやや苦しそう、微熱がある。この程度でも、あきらかに普段と違う様子を感じたら、肺炎を疑う。

伏せたがらない、横になって寝ない、立った状態で首を伸ばし頭部を前に出す姿勢をとる(気道を確保し呼吸を楽にしようとする姿勢)といった行動もよくみられる。

高熱を出すことが多いが、平熱の場合もあるので注意が必要。

初期には、レントゲンでも肺に異常が見られず、咳もしないことが多い。

心臓病など他の病気の可能性が除外されたら、すぐに急性肺炎の積極的治療を開始する。

この犬種には、肺炎の急激な重症化・死亡例が多いため、肺炎が疑わしい場合には絶対に”様子見”はしない。

発症から24〜36時間以内に症状の改善が見られない場合は、死亡のリスクが極めて高い。


<治療>

早期に第3世代セフェム系の抗生剤の注射をするのが有効。治療薬としては、エクセネルがとくに推奨される(治療効果および再発防止効果が高い)。※下記投薬例を参考にしてください。

ネブライザー、酸素吸入、点滴を併用する。

とくに入院の場合、ごく軽い運動をさせる(負担にならない程度に体を動かす)。

再発しやすいため、投薬は最低6週間程度は継続する。


<治療薬>

エクセネルとアンチローブの組み合わせが非常に効果的である。バイトリル、ロセフィンなども一般的だが、ウルフハウンドの肺炎ではとくにエクセネルが有効で、再発防止効果も高く、また副作用がないと言われています。

以下は、イギリスのIrish Wolfhound Health Group(Irish Wolfhound Club, Irish Wolfhound Society, Irish Wolfhound Club of Northern Ireland, Irish Wolfhound Club of Scotlandの4団体で構成)およびアメリカのIrish Wolfhound Foundation (Irish Wolfhound Club of Americaの調査研究団体)が公開している、ウルフハウンドに有効とされる肺炎の投薬例です。

いずれの場合も、すぐに効果が表れない場合には、薬を追加するか変更することを検討してください。

投薬例)
・エクセネル:皮下注射または筋肉内注射で、 2.2~4.4mg/kg/日を6週間続ける。アンチローブと併用。

・ロセフィン:1g/頭(15~50mg/kg、標準量25mg/kg)を希釈して筋肉内注射、もしくは静脈注射。12時間ごと、4~14日。1日目は2g、2日目以降1g/日。その後ゼナキル体重量を6週間継続。

・バイトリルまたはゼナキル:通常量1日2回+クリンダマイシン600mg以上(10mg/kg)、1日2回。このセットを4週続けてクリンダマイシンを切り、バイトリル(またはゼナキル)は3ヶ月続ける。
 注)バイトリルは生後1年半以下の仔犬には禁忌。

・バイトリル+アンチローブ:3週間継続

・ジスロマック:500mg/日、最低7日継続

・ロセフィンまたはセフチオフル+シプロフロキサシン

慢性肺炎の場合の投薬例)
・セファレキシン(22−30mg/kg、1日2回)を、次に肺炎を起こすまで続ける。その後はジスロマック(5-10mg/kg、初日は5mg/kgで2日目以降10mg/kgに増量)、症状がなくなってから5日間は10mg/kgの投薬を続ける。


【参考ウェブサイト】
・Irish Wolfhound Health Group: "Pneumonia"
・Irish Wolfhound Foundation: "Pneumonia: What you need to know"


急性肺炎

急性肺炎(acute pneumonia)


当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


肺炎はウイルス、細菌、真菌、寄生虫、誤嚥など様々な原因によって引き起こされる肺の炎症です。肺炎で最も一般的なのは、仔犬に多い「ケンネルコフ」と言われるウイルス性の肺炎や細菌性の肺炎ですが、これらはごく幼齢期の仔犬を除いて致死的になることは稀です。

これに対してウルフハウンドでは、仔犬だけでなく成犬でも、重度の肺炎を起こしやすい傾向があります。

ウルフハウンドの急性肺炎は成犬でも発症し、しばしば急性の経過をたどり致死的となることがあります。一般的な肺炎の症状や経過とは異なるために、獣医師による誤診や判断の遅れも生じやすく、注意が必要です。

以下では、ウルフハウンドに特徴的な劇症型の急性肺炎について書いています。


<原因>

はっきりした原因がなく、突然発症することが多いとされています。一度肺炎を発症した犬は、慢性的に再発を繰り返すことがあります。

ショーやイベント後にケンネルコフにかかった後、細菌性肺炎へ移行することもあるので、気をつけてください。


<症状>

発症して数時間は、頭部と首を伸ばす、横になって寝たがらない、食欲不振、元気がない、呼吸が苦しそうなど、あいまいな症状しかなく、咳や高熱といった一般的な肺炎の症状は示さない場合もあります。また、肺のレントゲン写真でも異常なしとされることもありますが、この段階で強力な治療を開始しないと手遅れになることがあります。

はっきりしない症状が出始めてから数時間のうちに状態が劇的に悪化することがあり、注意が必要です。肺炎が悪化すると発熱、呼吸困難、咳などが生じ、立てなくなります。飼い主が異変に気づいてから24時間以内に死亡することも稀ではありません。

ウルフハウンドの急性肺炎では、一刻も早く症状に気がつき治療開始することが何よりも重要です。早く気がつくためには、普段の犬の様子をよく把握しておくことも大切です。下記のチェックポイントを参考に、明らかに普段と様子が違う、呼吸がおかしいといったことに気がついたら、すぐに動物病院で診察を受けてください。


<肺炎の初期症状チェックポイント>
・突然発症する
・呼吸が苦しそう
・頭を下げ気味にし首を伸ばす(呼吸を楽にしようとする動作)
・横になって寝ない、伏せたがらない

咳、発熱、レントゲン画像上の肺の炎症は必ずしも伴わない場合があるので注意:
・咳をすることもあるが、しない場合もある
・熱(高熱)が出ることもあるが、平熱の場合もある
・レントゲン写真では肺に異常がみられない場合もある

肺炎発症直後のウルフハウンド(画像):首を伸ばし、目に力がなく虚ろ、寝たがらない(伏せても横にはなれない)、呼吸が苦しく、熱は40.2度あった。


首を伸ばす特徴的なしぐさを見せる犬:


<治療>

数時間で劇的に悪化するため、一刻も早く治療を開始する必要があります。また、再発もしやすいため、治療には注意が必要です。獣医師向けの「アイリッシュ・ウルフハウンドの急性肺炎:診断と治療」(プリントして病院にご持参ください)および「症例報告」もあわせてご覧ください。

治療は早期に積極的に行う必要があります。当初はセフェム系など強力な抗生剤を注射で用い、ネブライジング(吸入治療)、点滴などを併用します。

再発しやすく、慢性化すると治療困難なため、抗生物質は2~3ヶ月もしくは症状が無くなってから最低4週間程度は続けるよう推奨されています。


【参考文献】
・Irish Wolfhound Health Group "pneumonia" http://www.iwhealthgroup.co.uk/pneumonia.html


胃拡張胃捻転症候群

胃捻転胃拡張症候群(bloat, torsion, GDV)

当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


胃捻転は胸の深い大型犬に起こりやすく、ウルフハウンドでも多くみられます。アメリカの調査では、胃捻転胃拡張症候群はウルフハウンドの死因の第3位(1位は腫瘍、2位は心臓病)、死因全体の11.7%を占めています。しかし、突然死をとげて死因不明となっている個体が多く、実際にはもっと多くの犬が胃捻転で死んでいると言われています。

急に発症して短時間で死に至る恐ろしい病気です。日頃から予防策をとること、症状をよく知っておき胃捻転が疑われる場合に迅速に対処することが大事です。30分、1時間の対応の遅れが生死をわけることになります。

<胃捻転・胃拡張>

胃拡張は、何らかの原因で胃の出口がふさがってしまい、胃のなかに異常な量のガスがたまった状態です。胃捻転は、胃がアメ玉の包み紙のようにねじれて、胃の出入り口がふさがってしまった状態をいいます。胃捻転は普通、胃拡張の結果として起こります。稀に、拡張せずに捻転することもあります。

胃がねじれると、同時に脾臓や腹腔の大血管も巻き込んでしまいます。そのため、もっとも重症な場合には心臓に血液が回らなくなり、数時間でショック状態となり死に至ります。ただし、拡張や捻転の程度が軽い場合は、はっきりとした症状が出ないこともあります。


<症状>

食後数時間以内にや夜間に比較的多く起こります。胃は体の左側の肋骨の終わりあたりにあります。胃捻転を起こすと、その部分が左側に張り出してきます。腹痛や吐き気のためよだれを垂らし、吐こうとするけれど吐けない(胃がねじれて出口がふさがっているため吐けない)、という症状が見られます。

一般に、前兆はなく突然発症するとされていますが、なんとなく元気や食欲がない、吐く、ゲップをよくする、大量の水を飲む、腹部が張る(胃拡張の兆候)といった前兆が見られることもあります。こうしたことに気がついたら、経過によく注意してください。胃捻転は、普通は腹部が大きく膨らむので気がつくことが多いと思いますが、個人的な経験では、腹部の張りがほとんど認められない(獣医師も触診では捻転だと判断できない)状態でも、レントゲンを撮ったら完全にねじれていた例もあります。様子をよく観察し、明らかに苦しい・異常があると思う場合には、すぐに診察を受けるべきです(↓下記チェックポイントも参考にしてください)。

捻転がひどくなると、脾臓や腹部の大血管を巻き込み、心臓への血液供給に障害をきたして胃壁や心筋の壊死を引き起こし、急激にショック状態に陥ります。この状態になると犬はぐったりし、舌や口のなかの粘膜が白くなり、脈拍が速く、あるいは弱くなります。即時に動物病院で治療を必要とします。

胃捻転は、数時間の処置の遅れが命取りになります。胃捻転が疑われたら、一刻も早く獣医師の診察を受けてください。


<胃捻転の症状チェックポイント>

・夜間に発生することが多い 
・よだれを流す
・嘔吐を伴わない吐き気がある(吐こうとしても吐けない)
・急に腹部が張り出してくる(体の左側、肋骨の後ろ部分が張る) 
・腹痛、腹部不快感がある(落ち着かずウロウロ歩き回ることも)
・呼吸困難または呼吸が速い
・循環障害(血流が悪くなるため、手足が冷えるなど)
・虚脱(ぐったりする) 
・歯ぐき、口の内部の粘膜、舌の色が白い
・脈が速い 
・脈が弱い


<原因>

胃捻転や胃拡張のはっきりした原因はわかっていません。大食いや早食いにより、胃が食物や空気で拡張し、その後に激しい運動をすることで危険性が高まるといわれています。

胃捻転・胃拡張は単純な病気ではなく、犬の体格や体質、性格、食事の質や量、胃の状態(運動性)、遺伝的素質など、多くの要因が複雑に絡み合って発症するものと考えられています。疲労や病気、老齢などのために体力が落ちているときには、とくに発症しやすくなる傾向があります。

なお、生後9ヵ月頃までの仔犬では、胃捻転の発症例はないとされています。


<胃捻転胃拡張症候群のリスク・ファクター>

現在提唱されている胃捻転胃拡張症候群のリスク・ファクター(危険因子)です。あてはまる項目が多い場合は、とくに注意が必要です。
・大型犬および超大型犬
・胸が深い体型(ウルフハウンドを含むサイトハウンドやグレートデーンなど)
・雄犬
・年齢が中~高齢
・痩せている
・神経質、臆病な性格
・親犬や兄弟犬など近親に胃捻転を起こした犬がいる
・以前に胃捻転を起こしたことがある(再発することが多い)
・1日1回だけの食事
・1種類だけの食事
・食べ方が速い
・過食
・多量の飲水(一度に沢山の水をがぶ飲みする)
・食後に激しい運動をする
・フードの粒の直径が小さい(5mm以下)
・ストレスを感じている(旅行や慣れない場所への外出、場合によっては多頭飼いなどもストレスの原因になる)          

<予防> 

完全な予防は不可能ですが、以下のような予防策をできるだけ取り入れて、胃捻転になりにくい生活を心がけてください。  
・1日2~3回に分けて食事を与える
・食後数時間は様子を観察する  
・食前1時間および食後2時間程度は、激しい運動や興奮、ストレスを避ける
・食事内容を変えるときは3~4日かけて徐々に行なう。
・水分が多く、消化のよい食事を与える(ドライフードは水かぬるま湯でふやかす、手づくり食にする、など)
・静かに落ち着いて食べられる環境をつくる
・食器は、犬にとって食べやすい高さに置く
・旅行やストレスが予想される外出の日には、食事を少なめにしたり1食抜くなどする

近親犬に胃捻転を発症した犬が複数いて遺伝的な素因がある場合などには、予防的胃固定手術というオプションも考えられます。メスの場合は、避妊手術と同時に行うことで、犬の体への負担を抑えることもできます。

また、胃捻転を発症した場合には、超大型犬の手術・入院態勢の整った病院でなければ受け入れてもらえません。緊急事態になってから探すのではなく、日頃からそうした観点で病院探しをしておくと安心です。かかりつけの病院には、手術や入院、また夜間に発症した場合の対応などについて、よく確認・相談しておくことをお勧めします。


<治療>

胃にたまったガスを抜き、ねじれた胃を元に戻します。開腹手術で入院が必要となります。犬の状態が悪い場合には手術に耐えられないことも考えられます。できるだけ早くに診察を受け、体力のあるうちに手術を受けることで回復の可能性が高まります。

再発が多いとされているため、手術の際には胃固定手術を行います。これによって、その後は胃拡張は起こっても捻転は防ぐことができ、短時間に致命的に症状が悪化することを防ぐことが期待できます。




【参考文献】
・『小動物の臨床栄養学』(第4版)、マーク・モーリス研究所
・  SA Medicine 
・『スモールアニマルインターナルメディスン』(第2版)、メディカルサイエンス社
・ Glickman, L.T., Glickman, N., Schellenberg, D.B., Raghavan, M., Lee, T. (2000) "Non-dietary risk factors for gastric dilatation-volvulus in large and giant breed dogs", JAVMA, vol.217, No.10, Nov 15.

 

基本の手入れ

<ブラシ>

日常的な手入れは、ブラシをかける程度でOK。換毛期にはそれなりに毛が抜けます。スリッカーブラシなどが便利です。


<ハサミ>

基本的にはハサミを入れてはいけない犬種です。

ただし、お尻の周囲などは、ハサミやバリカンで毛を短く整えておくと、汚れを減らしたり洗いやすくする効果があります。足の裏のパッドの間の毛も同様に短くしておくと、汚れの軽減、またフローリングなどで滑りにくくなる効果もあります(山野で走り回る場合には逆に毛を残しておいたほうが足の保護になります)。


<プラッキング>

ウルフハウンドの被毛は、長めで固いオーバーコートと、短く密生した柔らかいアンダーコートの二重になっています。アンダーコートは絶対に抜いたりしないでください。

長くなりすぎたオーバーコートは、数本ずつ指でつまんで抜いて整えます。個体差はありますが、体の大部分は毛を抜かれてもほとんど感じないようです。耳など痛がる部分は、丁寧に少しずつ抜いていきます。

毛質や毛量にもよりますが、プラッキングにはかなりの時間と労力がかかります。一度に全身をやろうとせずに、日常的に長くなりすぎた毛のみを少しずつ抜くようにするとよいでしょう。

毛量が多い場合、プラッキングをするのが大変であれば、コートキングのような毛を梳き取る道具を使って短く整えるとよいでしょう。全身にバリカンを入れるのはお勧めできません。オーバーコートには夏場の強い直射日光を遮るという役割もあるので、サマーカットといって全身刈ってしまうと、かえって暑い思いをさせてしまいます。


<シャンプー>

頻繁にシャンプーをする必要はありません。汚れたときや匂いが気になるときだけで十分です。シャンプー前にブラシをかけ、シャンプー後はドライヤーでよく乾かすと、皮膚コンディションをよく保つことができます。毛質にもよりますが、固いコートであれば、多少の汚れは絞ったタオルで拭くだけでもかなり落とせます。



スタンダード(FCI Breed Standard)


アイリッシュ・ウルフハウンド スタンダード(FCI




原産国:アイルランド

利用目的17世紀末まで、アイリッシュ・ウルフハウンドはアイルランドで狼や鹿狩りに使われた。また、森林伐採以前のヨーロッパの広い地域で狼狩りに用いられた。

FCI分類:グループ10(サイトハウンド)、セクション2 ラフコートのサイトハウンド、ワーキングトライアル(実猟試験)なし

歴 史:[省略。18世紀にほぼ絶滅、グレアム大尉が、残ったわずかなアイリッシュ・ウルフハウンドをもとに復活させた。その際、ディアハウンド、ボルゾイ、グレート・デーンなどとの交配も行われた。1885年、最初のアイリッシュ・ウルフハウンド・クラブ設立(イギリス)]

外 見:アイリッシュ・ウルフハウンドはグレート・デーンほどではないが、ディアハウンドよりは重たくがっしりしていなければならない。その他の点では全般にディアハウンドに似ている。サイズは大きく、堂々とした外観で、非常に筋肉が発達し、力強く優美なつくりで、動きは軽く機敏。頭部と首は高く上げている。尾は上向きに緩やかに湾曲し、先端部分がわずかにカーブする。
体高と、それにつりあった胴体の長さをもつ、巨大なサイズを達成することが何より求められており、オスの平均体高が3234インチ(81〜86cm)で、必須のパワーと活動性、勇気と均整美を示す犬種を確立することが望まれる。

行動と性格:「家では子羊、狩りではライオンのよう」

頭 部:長く平らな頭部を高くあげている。前頭部の額の骨はごくわずかにもり上がっており、両目の間隔は非常に狭い。

頭蓋:
 頭蓋骨:幅が広すぎない
顔:
 口吻(マズル):長く、適度に尖っている
 歯:シザースバイトが望ましいが、レベルバイトも許容される
 目:濃い色
 耳:小さいローズイアー(グレイハウンドのような耳付き)

首:長めで、非常に力強く筋肉質、アーチ状をなし、喉の部分に胸垂や皮膚のたるみがない

胴体:長く、胸郭が発達している
 背中:どちらかというと長い
 腰部:わずかに弧を描く(アーチ状)
 尻:腰骨の間はとても幅が広い
 胸部:非常に深くで適度に幅広く、前胸部は幅広い
 肋骨:よく張っている
 腹部:よく巻き上がっている

尾:長く、わずかにカーブし、適度な厚みをもち、十分に毛で被われている


四 肢
前半身:
 肩:筋肉が発達し、胸の深さをもたらし、斜めについている
 肘:十分に入り、外側にも内側にも出ていない
 前肢:筋肉質で、骨が太く、まっすぐ
後半身:
 太腿:長く筋肉が発達している
 膝:ほどよく曲がっている
 下腿:よく筋肉がつき、長くて強靭
 飛節:低く、外側にも内側にも曲がっていない
足:適度に大きく丸い。内側にも外側にも曲がっていない。指はよくアーチ状をなし、閉じている。爪は非常に強く、湾曲している。

歩様/動き:動きは軽く機敏

コート
毛:胴、脚、頭部の毛はもじゃもじゃとして硬い。目の上の毛とあご髭はとくに硬い。
色とマーキング:グレー、ブリンドル、レッド、ブラック、純白、フォーン、またはディアハウンドに見られるすべての毛色が認められている

体高と体重:
 望ましい体高:オスで32インチ(81センチ)から34インチ(86センチ)
 最低体高:オス 31インチ(79センチ)
 最低体重:オス 120ポンド(54.5キロ)
 最低体高:メス 28インチ(71センチ)
 最低体重:メス 90ポンド(40.5キロ)

欠 点:
上記からの逸脱はすべて欠点とみなされる。欠点の重大さは、それが犬の健康と幸福に与える影響の大きさに対応する。
・軽すぎる、または重たすぎる頭部
・盛り上がりすぎた額
・曲がった前肢;弱いパスターン
・弱い後半身と全体的な筋肉の欠如
・短すぎる胴体
・斜めの、くぼんだ、または非常に直線的な背中
・大きな耳、顔に垂れ下がる耳
・ゆがんだ足
・広がっている足指(握りが悪い)
・短い首;発達した胸垂(デューラップ)
・幅の狭すぎる、または広すぎる胸部
・巻きすぎの尾
・黒以外の色の鼻
・黒以外の色の唇
・非常に明るい目の色。ピンクまたはレバー色の眼瞼

明らかに身体的または行動上の異常を示している犬は失格とされる。 
注記:オスは2つの睾丸が陰嚢から完全に降りていなければならない