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胃拡張胃捻転症候群

胃捻転胃拡張症候群(bloat, torsion, GDV)

当サイトでは、犬の病気のなかで、とくにウルフハウンドについて注意しなくてはならないものをとりあげています。病気にかかった時の参考や病気の予防、早期の対応に役立てていただければと思います。
 
病気についての記述はあくまで典型的な症状や経過、治療について書いたものです。症状や経過には個体差があります。飼い主の自己判断は大変危険ですので、病気の兆候がみられたら、すぐに獣医師の診察を受けてください。


胃捻転は胸の深い大型犬に起こりやすく、ウルフハウンドでも多くみられます。アメリカの調査では、胃捻転胃拡張症候群はウルフハウンドの死因の第3位(1位は腫瘍、2位は心臓病)、死因全体の11.7%を占めています。しかし、突然死をとげて死因不明となっている個体が多く、実際にはもっと多くの犬が胃捻転で死んでいると言われています。

急に発症して短時間で死に至る恐ろしい病気です。日頃から予防策をとること、症状をよく知っておき胃捻転が疑われる場合に迅速に対処することが大事です。30分、1時間の対応の遅れが生死をわけることになります。

<胃捻転・胃拡張>

胃拡張は、何らかの原因で胃の出口がふさがってしまい、胃のなかに異常な量のガスがたまった状態です。胃捻転は、胃がアメ玉の包み紙のようにねじれて、胃の出入り口がふさがってしまった状態をいいます。胃捻転は普通、胃拡張の結果として起こります。稀に、拡張せずに捻転することもあります。

胃がねじれると、同時に脾臓や腹腔の大血管も巻き込んでしまいます。そのため、もっとも重症な場合には心臓に血液が回らなくなり、数時間でショック状態となり死に至ります。ただし、拡張や捻転の程度が軽い場合は、はっきりとした症状が出ないこともあります。


<症状>

食後数時間以内にや夜間に比較的多く起こります。胃は体の左側の肋骨の終わりあたりにあります。胃捻転を起こすと、その部分が左側に張り出してきます。腹痛や吐き気のためよだれを垂らし、吐こうとするけれど吐けない(胃がねじれて出口がふさがっているため吐けない)、という症状が見られます。

一般に、前兆はなく突然発症するとされていますが、なんとなく元気や食欲がない、吐く、ゲップをよくする、大量の水を飲む、腹部が張る(胃拡張の兆候)といった前兆が見られることもあります。こうしたことに気がついたら、経過によく注意してください。胃捻転は、普通は腹部が大きく膨らむので気がつくことが多いと思いますが、個人的な経験では、腹部の張りがほとんど認められない(獣医師も触診では捻転だと判断できない)状態でも、レントゲンを撮ったら完全にねじれていた例もあります。様子をよく観察し、明らかに苦しい・異常があると思う場合には、すぐに診察を受けるべきです(↓下記チェックポイントも参考にしてください)。

捻転がひどくなると、脾臓や腹部の大血管を巻き込み、心臓への血液供給に障害をきたして胃壁や心筋の壊死を引き起こし、急激にショック状態に陥ります。この状態になると犬はぐったりし、舌や口のなかの粘膜が白くなり、脈拍が速く、あるいは弱くなります。即時に動物病院で治療を必要とします。

胃捻転は、数時間の処置の遅れが命取りになります。胃捻転が疑われたら、一刻も早く獣医師の診察を受けてください。


<胃捻転の症状チェックポイント>

・夜間に発生することが多い 
・よだれを流す
・嘔吐を伴わない吐き気がある(吐こうとしても吐けない)
・急に腹部が張り出してくる(体の左側、肋骨の後ろ部分が張る) 
・腹痛、腹部不快感がある(落ち着かずウロウロ歩き回ることも)
・呼吸困難または呼吸が速い
・循環障害(血流が悪くなるため、手足が冷えるなど)
・虚脱(ぐったりする) 
・歯ぐき、口の内部の粘膜、舌の色が白い
・脈が速い 
・脈が弱い


<原因>

胃捻転や胃拡張のはっきりした原因はわかっていません。大食いや早食いにより、胃が食物や空気で拡張し、その後に激しい運動をすることで危険性が高まるといわれています。

胃捻転・胃拡張は単純な病気ではなく、犬の体格や体質、性格、食事の質や量、胃の状態(運動性)、遺伝的素質など、多くの要因が複雑に絡み合って発症するものと考えられています。疲労や病気、老齢などのために体力が落ちているときには、とくに発症しやすくなる傾向があります。

なお、生後9ヵ月頃までの仔犬では、胃捻転の発症例はないとされています。


<胃捻転胃拡張症候群のリスク・ファクター>

現在提唱されている胃捻転胃拡張症候群のリスク・ファクター(危険因子)です。あてはまる項目が多い場合は、とくに注意が必要です。
・大型犬および超大型犬
・胸が深い体型(ウルフハウンドを含むサイトハウンドやグレートデーンなど)
・雄犬
・年齢が中~高齢
・痩せている
・神経質、臆病な性格
・親犬や兄弟犬など近親に胃捻転を起こした犬がいる
・以前に胃捻転を起こしたことがある(再発することが多い)
・1日1回だけの食事
・1種類だけの食事
・食べ方が速い
・過食
・多量の飲水(一度に沢山の水をがぶ飲みする)
・食後に激しい運動をする
・フードの粒の直径が小さい(5mm以下)
・ストレスを感じている(旅行や慣れない場所への外出、場合によっては多頭飼いなどもストレスの原因になる)          

<予防> 

完全な予防は不可能ですが、以下のような予防策をできるだけ取り入れて、胃捻転になりにくい生活を心がけてください。  
・1日2~3回に分けて食事を与える
・食後数時間は様子を観察する  
・食前1時間および食後2時間程度は、激しい運動や興奮、ストレスを避ける
・食事内容を変えるときは3~4日かけて徐々に行なう。
・水分が多く、消化のよい食事を与える(ドライフードは水かぬるま湯でふやかす、手づくり食にする、など)
・静かに落ち着いて食べられる環境をつくる
・食器は、犬にとって食べやすい高さに置く
・旅行やストレスが予想される外出の日には、食事を少なめにしたり1食抜くなどする

近親犬に胃捻転を発症した犬が複数いて遺伝的な素因がある場合などには、予防的胃固定手術というオプションも考えられます。メスの場合は、避妊手術と同時に行うことで、犬の体への負担を抑えることもできます。

また、胃捻転を発症した場合には、超大型犬の手術・入院態勢の整った病院でなければ受け入れてもらえません。緊急事態になってから探すのではなく、日頃からそうした観点で病院探しをしておくと安心です。かかりつけの病院には、手術や入院、また夜間に発症した場合の対応などについて、よく確認・相談しておくことをお勧めします。


<治療>

胃にたまったガスを抜き、ねじれた胃を元に戻します。開腹手術で入院が必要となります。犬の状態が悪い場合には手術に耐えられないことも考えられます。できるだけ早くに診察を受け、体力のあるうちに手術を受けることで回復の可能性が高まります。

再発が多いとされているため、手術の際には胃固定手術を行います。これによって、その後は胃拡張は起こっても捻転は防ぐことができ、短時間に致命的に症状が悪化することを防ぐことが期待できます。




【参考文献】
・『小動物の臨床栄養学』(第4版)、マーク・モーリス研究所
・  SA Medicine 
・『スモールアニマルインターナルメディスン』(第2版)、メディカルサイエンス社
・ Glickman, L.T., Glickman, N., Schellenberg, D.B., Raghavan, M., Lee, T. (2000) "Non-dietary risk factors for gastric dilatation-volvulus in large and giant breed dogs", JAVMA, vol.217, No.10, Nov 15.